人間

「メモ・・・・メモ・・・メモ・・・」

男は酷くうなされて目が覚めた。

「おや、いつのまにか寝ていたぞ・・・。」

そうつぶやいた後、男はとんでもないことに気づく。

「えーと、何をしていたのかな・・・」

「あれ・・・思い出せない・・・」

「私は・・・誰・・・?」

ベタベタだが、本当に記憶喪失になってしまった人間の反応は意外にこんなものかも知れない。

そして男は思い出す。

「そうだ、メモだ!」

そして男はそこにあったメモを見る。

「ティッシュ箱の裏?ハテ?」

メモには【ティッシュ箱の裏】とだけ書かれている。

しかし、男にはそれだけしか手がかりがないのでティッシュ箱を探す事にした。

ピンポンピンポンピンポン!!

その時玄関のチャイムの音が鳴った。

男はとりあえず玄関の方に行ってみる。

すると男と同年代の男が出てきた。

もちろん男は覚えていない。

「えーっと・・・どなたですか?」

相手は狐につままれたような顔をした。

という事はつまり男の知り合いなのだ。

「酷いじゃないか、呼んだのは君だぜ。からかうのもほどほどにしてくれよ。」

「えーっと、スミマセン・・・実は・・・・」

と言うと目が覚めてから今までの事を話した。

しばしの沈黙を置いて相手は話を切り出した。

「信じられないなァ。ほんとにそんなことってあるのか?でも君が嘘をついたりするような男じゃないことは承知してるよ。だから信じるが。

もし君じゃなかったら信じなかったろうな。」

「はぁ、それはありがとうございます。」

「堅苦しいなァ、もっと気軽に話してくれていいんだぜ。俺たち友達だろ?」

「いえ、でも今は記憶がないわけですし・・・。」

「まぁ、いいか。」

友人はそう言い、しばしの間をおいて切り出す。

「とりあえず、ティッシュの裏だっけ?それを探してみようぜ。」

「はぁ・・・。それもそうですね。」

男はやる気があるんだか、ないんだかわからないような口調で返事をした。

「ティッシュの場所なら知ってるぞ。」

「それは助かります。」

そして友人に連れられティッシュのところまで辿り着いた。まさに、ようやくと言った感じだ。

「えーと、裏・・裏・・・と。」

「あ、何か書いてありますね。・・・・【カレンダー12月】か・・・。」

「キミ何かゲームでもしてたのか?」

「さぁ・・・。でも、12月のカレンダーを見るしかないでしょうね。」

「そうだな。」

「あ、カレンダーはティッシュのすぐ上にありましたよ。」

カレンダーは意外にすぐ見つかった。

「えーっと、12月と。」

男はカレンダーを少しめくる。

「おいおい、また何か書いてあるぞ。【パソコンのメール10月28日】だってさ。」

「私やっぱりゲームでもしてたんでしょうか・・・。」

「してたんじゃないか?」

そして男は思い出す。

「あ、パソコンなら私が寝ていた部屋にありましたよ。」

「おお、そうか。じゃあ早速行こう。」

はじめに男が寝ていた部屋のスミのほうにパソコンはどっしりと構えていた。

「じゃあつけますね。」

男はスイッチを押す。

「パソコンの操作は覚えているんだな。」

「ははは、そうみたいですね。」

パソコンはまだしばらく起動しそうにない。

「ところで私はなんであなたを呼んだんでしょうね。」

「キミは電話で結婚記念がどうの、プレゼントがどうのって言ってたぞ。」

「おや、結婚なさるんですか?」

「あ、そういえば忘れてるんだったな。そ、結婚するの。」

「それはおめでとうございます。」



キィーーーーーン



何か男の頭の中で触れるものがあった。

男は「ん?」と思ったが黙っていた。

「お、雑談してる間にパソコンは起動できたみたいだぜ。」

「では早速メール、メール。」

「10月28日だっけ?」

「そうですね。10月28日・・・と。あ、あったあった。ありましたよ。」

「次はなんだ〜?」

「また、何か書いてありますねぇ。えーっと、今度は【新聞11月2日】とありますね。」

「もうこうなったらとことん付き合ってやるよ。」

と友人は苦笑しながら言う。

「はは、ありがとうございます。・・新聞もたしかこの部屋にあったような・・・。」

二人であたりを見回して友人が気づく。

「お、そこにあるぞ。」

なぜか不自然に11月2日分の新聞だけ置いてあった。

「えーっと、やっぱりまた書いてありますね。」

「【井戸】?」



キィーーーーーン



また何か触れるものがあった。

「ま、とりあえず台所へ行きましょう。」

「そうだな。だんだん面白くなってきたな。」

「そうですねぇ。」

「その窓から見えるアレが井戸じゃないか?」

「あ、ほんとだ。じゃあ早速行きましょう。」

「ん?いつになく積極的だな。やっぱりキミも楽しいかい?」

「はは、実は少し。」

二人は大声で笑い合うと玄関から出て、裏庭の井戸へ向かった。

そして井戸が見えてきた。

時代錯誤で古風な井戸だ。



キィーーーーーン



まただ。

「お、井戸だ井戸。今度はなにかな?」

「あー、痛つ・・・。」

「ん?どうした?」

「あ、すみません・・・。ちょっと頭が痛くて・・・・。私の代わりに井戸に何があるか覗いてもらえませんか・・・?」

「あ、そうだな。よし、待ってろ。」

友人が井戸を覗き込んでいる。

そこで男は全てを思い出した。

「どうですか?」

友人は井戸を覗き込んだまま話す。

「いやぁ、暗くてよく見えないなァ。」

「そうですか、じゃあ降りて見てきてください。」

というと男は友人の背中を押した。

「え?」

友人がそういう間もなく井戸の中へ落ちた。

そして男はやるべきことを済ませる。

井戸のフタを閉めるのだ。

バタン!

重く大きな井戸のフタは閉まった。

これでもし生きていたとしても声が漏れることはない。



男は家に入り一息つく。

「はぁ、作戦どうりとはいかなかったが、結果よければ全てよしというヤツだな。

なぜ一時的に記憶がなくなったのかはわからないが、すべてうまい方向に回ってくれた。もともと彼を家に呼び、私が井戸のそばに隠れ

ていて彼が来るのを待つ作戦だったのだが、まさか自分でそれを辿ることになるとは・・・。」

男は苦笑し、また独り言をつぶやく。

達成感からこうするのかもしれない。

「彼さえいなければ・・・・彼さえいなければ彼女は私のものになっていたのに・・・・。あの男は口がうまい・・・女というのはおとなしい男

より、面白い男を取るものだ。彼女も例に漏れずあの男を選んだ・・・。」

そして一つ溜め息をつく。

「だが、これで彼女は私のものだ・・・・。」

男はまた一つ溜め息をつく。









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