ロボット

「ではお気をつけて。」

私はそう言うと、コーヒーを飲んで一息ついた。

するとすぐに、血相の悪い男が狐につままれたような顔で部屋に入ってきた。

こんなことはよくあることなので、私は平常心で話しかけた。

「どうしました?」

すると男はやはり狐につままれたような顔で口を開けた。

「先生・・・。どうもおかしいんです・・・。」

「ん?どこがおかしいんですか?」

「いえ、私ではなくて、妻がおかしいんです。」

「じゃあ奥さんを連れてきて下さい。じゃないと話が始まりませんよ。」

「いえ、でも妻は・・・・。」

そこで私は察した。

つまり彼の妻は自分で自覚がないのだ。

よくいる。

「ははあ、なるほどね。大体わかりましたよ。奥さんを治して欲しいんですか?」

「あ、いえ・・・治すとかじゃなくて・・・・。」

男は話しにくそうにしゃべり始めた。

「私自身なんでここへ来たのかわからないんです。」

「と言いますと?」

「実は妻がロボットになってしまったんです。それで警察に話したんです・・・・そしたら・・」

「はい?なんですって?」

一瞬私は耳を疑った。

そして今までの経験からして、察した。

なるほど、結局この男は患者なのだ。

大方警察に話して、うまく言いくるめられココへ来たってわけだろう。

「ところで、ここがどんな治療をする病院かは知っておいでですか?」

「え・・あ・・はい、入る時に見ました。精神科・・ですよね?」

一応精神はまともなように見える。

しかし、こういう患者もまれにいる。

「また話題を戻しますが、奥さんがロボット・・・でしたっけ?」

「はい。ロボットに・・・・。」

男は今にも泣きそうな口調で話す。

私は適当に話を合わす。下手に抗議してはいけないのだ。

「なってしまった、という事は昔は違ったんですか?」

「はい、違いました。」

「いつなったのかわかりますか?」

「いえ、いつなったのかは・・・。昨日初めて気づいたもので・・・。」

「はあ。」

「でも気づいてみると結構前からこんな感じだったような気がします。」

「どういう感じなのですか?」

「冷たいんです。」

私は長年の勘から気づいた。

この患者は妻の態度が冷たくなった事にたいするショックから妻がロボットになってしまったと思っているのだろう。

そうない話ではない。

「もしかしたらそうなる前、奥さんに冷たく接していたんではないですか?」

「・・・・そうかも知れません・・・。」

男はハッと気づいたように言った。

「奥さんに優しく接する事してみてください。そうすれば治りますよ。」

「あ、いやでもそういうわけじゃなくて、冷たいのは身体なんです。」

「え?」

また私は耳を疑った。

そしてその後長年の経験から察した。

この男はそうとう重症のようだ。

「妻の身体が金属のように冷たいんです。」

「ロボットのように・・・ですか?」

「はい。」



私はここで決心した。

この男には催眠治療を使うしかないようだ。

催眠治療、つまり催眠術で暗示をかけるのだ。

「ちょっといいですか?これを見て下さい。」

私はヒモの先にコマのような物がついた専用の器具を使った。

「いいですか?あなたの奥さんは普通の人間です。やさしく接してあげれば全てが元通りです。」

「3・2・1・はい!」

「気分はどうですか?」

私は術をかけた。

手馴れた物だ。

「なんだか、スッキリしました。」

「これで問題なく暮らしていけるはずです。」

「はい、ありがとうございました。」

「では、もう帰ってもいいですよ。お気をつけて。」



男は軽快な足取りで帰っていった。

私はコーヒーを飲みながら一人考えた。

彼等はきっとこれからは上手くいくだろうな。

人間が世界から消えて573年、私たちは人間に変わって地球を生きている。

しかし、人間の目標だった人間のようなロボットというのは結局生まれなかった。

しかし、自分を人間だと思い込んでしまう彼のようなヤツが出てきてしまうのだ。



私は「皮肉なものだなぁ。」と独り言をつぶやくと身体を磨く作業に取り掛かった。









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