電車の中 |
ガタンゴトンガタンゴトン・・・・
九月、私は旅行を兼ねてある片田舎の電車に乗っていた。
─あ、ここいいですか?
私が周りの景色を眺めていると紳士風の男が相席を申し出てきた。
別に断る理由もないので私は「どうぞ」と許可した。
─ありがとうございます。
─いやぁ、暑いですねぇ。
男はこんな事を話しかけてきた。
電車の中はクーラーが効いている。
だから暑くはない。
しかしこれは社交辞令というものだろう。
「暑いですねぇ」わたしもそう返した。
普通ならこれで終わりだ。
しかし、この男は違った。
─でもね、もうすぐ涼しくなりますよ。
私は急に自信満々でこんなことを言いわれ、意表をつかれてしまった。
そして気づいた時には「え?」と聞き返してしまっていた。
─いえいえ、たいした事じゃないんです。
と男は言う。
さっぱりわからない。
「どういう事ですか?」
と聞くと。
─私がこの電車の終点で降りれば秋が来ますよ。
私はまたもや意表をつかれてしまった。
「ハハハ、それは風流ですねぇ」
とわけのわからない返事をしてしまった。
─ははは。
私は話を合わせてみることにした。
「はは、あなたは魔術師とか占い師をやってるんですか?」
─いえ、私に予知能力なんて大それたものはありませんよ。
「そうです。」と言うと思っていた私はまたもや意表をつかれた感じがした。
「あなたは何者なんですか?」私はそう聞いてみた。
いや、そう聞くしかなかった。
─わたしは─
キキーーーーーーーーー
そこで私の降りる駅についてしまった。
私は冗談半分で聞いていたので、別にそこに留まって聞こうとはしなかった。
「あ、私はここでおります。楽しく話していたのであっという間でしたね。」
と言い。
─そうですね。ではお気をつけて。
と男が言ってきた。
私は降りる間際にこう言った。
「秋・・・・・来るといいですね。」
すると男はうれしそうに
─はい。
と微笑みながら言った。
私は「不思議な人だったなぁ・・・」と独り言をつぶやきながら改札を出た。
それからしばらくすると、急に涼しくなってきた。
なんと秋が来たのだ。
あの男が丁度終点についたあたりの時間だった。
私は電車表を広げ、さっきの電車の終点を調べてみた。
「出雲駅」
あの男は秋の神様だったのだろうか。
私は今でも男の嬉しそうな笑顔を忘れない─。
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